平和マネキンのマネキン創りに対する姿勢を一冊の本に仕上げました。
モノは人の手によって考えられ、形作られる。
ひとつの形になったモノはやがて自立し、ショーウィンドーの中で人を超える存在となる。それは空間の中で人々にファッションという夢を語る。
その名はマネキン、現代のトリックスター。
ここに一本のナイフがあります。
四十年近く使われたナイフは少しずつ手になじみ、やがて作家の手の一部となり、粘土を自在に切り取ります。粘土もナイフもどんなに時間が経っても変わらない。それは私たちの大切な原点のひとつでもあります。
作家がまず取りかかるのは原イメージを具体的にすること。そのために作家はアイデアスケッチを何枚も、何枚も描きます。イメージの断片が、線でつながり、リアルになっていきます。
完成したイメージは、骨格が創られ、粘土によって少しずつ肉付けされ、作家の原型イメージがその姿を現します。
マネキンの制作には、時代を捉える感性が必要です。ファッションという文脈において、いかに新しい夢を創造するか。時代を捉える感性とイメージを具現化する技術。それらは共に、私たちが大切に育み、次の世代へ伝える。平和マネキンならではの大切な財産でもあります。
熟練の職人が一体、一体マネキンを仕上げていきます。華やかなマネキンの舞台裏を支えるたくさんの人々。平和マネキンの創業当初から変わらないクラフトマンシップ。それは原型作家が生みだした作品の精巧な分身達を心をこめて仕上げていく姿勢とこだわり、そして誇りです。
目があった瞬間、見るものを圧倒するマネキンがいます。ショーウィンドーの中から見つめられ、見返す視線のやりとり。メイクアーティストは化粧により、マネキンに新たな命を吹き込みます。原型作家と同じように時代を読みながら、流行を先取りします。工房で丹念にメイクされたマネキンは都会を颯爽と歩き始めます。
人の存在感を超え、ディスプレイ空間の主人公となるマネキン。それはまさにブランドの代弁者としての資格を備えています。私たちはそうしたマネキンを生み出す事ができるだけでなく、効果的なブランドコミュニケーションをおこなうために、内装から店舗まで一貫した空間創りの中で、総合的に考えます。
マネキンは帽子を被り、衣服を身につけた瞬間、変身します。それまで寡黙だった彼女らは、突然、饒舌になります。都会のショーウィンドーの中から私たちを誘惑します。空間を新しい記号に豹変させ、支配するマネキンは、まさにショーウィンドーのトリックスターといえるでしょう。
マネキンはファッションに夢を与えます。ショーウィンドーという小さな宇宙の中で語ります。楽しいシーン、お洒落なシーン、ファンタスティックなシーン、どれもが新しいファッションとして、夢世界に見る人を誘います。昔も今もそしてこれからも、私たちは夢を創造する企業です。
人間は疲れると自分の意志で休むことができます。けれどもマネキンは自分で休息することはできません。炎天下の夏の空間で、毎日休むことなく働いた彼女らは大きな倉庫に戻され、化粧直しをしてもらいます。雪の降るクリスマス、私たちにプレゼントをおねだりするために。
季節の移り変わりとともに、マネキンも肌の色や化粧が変わります。それは生身の人間と全く同じかもしれません。24時間毎日働いたマネキンは肌の肌理や髪型や化粧直しをしてもらい再び都会のショーウィンドーという舞台に戻ります。マネキンのリメイクはそのレンタルシステムに支えられています。
アニメの中から出てきたようなキャラクターがいます。マネキンは大人だけでなく、子供達にも夢を与えることができます。あっという間にショーウィンドーが子供の夢空間に変わります。子供も親もそれを楽しみながら、同時に新しいファッションを感じます。私たちはこうした新しいマーケティングをおこなうパイオニアです。
夢を与えるファッションは日常から少し脱却しています。同じようにショーウィンドーという空間のデザインも日常ではなく、非日常を如何に楽しく表現するかにあります。様々な形、色彩、メッセージ、どれもが新しいメッセージを形作ります。そして非日常の快楽を象徴するものとしてマネキンがあります。
ショーウィンドーはいつも私たちの目を楽しませてくれます。限られた空間の中で異次元の世界が広がります。通り過ぎる人、じっと見つめる人、老若男女すべてが観客です。観客は小宇宙で演じられる劇に驚き、感動します。マネキンはこの劇場装置の主役として舞台を演じます。